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執筆者の写真Re:ALL

サイゼリヤ青春物語


サイゼリヤのメニューとともにお楽しみください。

※この記事が書かれるにあたり参照されたメニューは2020年4月時点のものです。

私の青春はまったくもってあまずっぱかった。まるで"すっきりレモンのシャーベット"のように。今でもオリーブオイルの香りを嗅ぐとあの日々を思い出す。

彼女と出会ったのは大学の新歓の時だった。コンパの時にたまたま隣に座った彼女がこんなことを言った。


サンドロ・ボッティチェッリ『ヴィーナスの誕生』(1483)

「ねえねえ、前から思ってたんだけどこのヴィーナス、早く服を着ないと風邪ひいちゃうよねえ。」

変なことを言うなと思いつつ、

「この"プロシュート"でドレスでも作ってあげればいいんじゃないかな。」

と言うと、

「もう、レディー・ガガじゃないんだから」

と言って楽しそうに彼女は笑った。


ラファエッロ・サンティ『ガラテアの勝利』(1512)の1部

キューピッドがわたしの心を射抜いたのはその時だった。運ばれてきた"ミラノ風ドリア"を食べている時でさえも心ここにあらず。それもそのはず、私の心は射抜かれてしまった衝撃で飛ばされサイゼリヤを早々に退店し、日本海を越えユーラシアの大地を電光石火のごとく駆け抜けイタリアへ。ミラノコレクションのランウェイを威風堂々突き進むとそこはローマだった。「全ての道はローマに通ず」なんて言うけれど、まさかファッションショーのランウェイまでも通じているとは思いもしなかった。

その後の会話も大いに盛り上がった。そして私の心は"アラビアータ"のように赤く燃え上がったのだった。それから彼女とはよく話す仲になり、毎週サイゼリヤに来た。いつものヴィーナスの誕生の近くの席。彼女が頼むのはいつも"ミートソースボロニア風"。これがお気に入りらしい。彼女はやさしくて明るい人だった。



ラファエッロ・サンティ『アテナイの学堂』(1509-1510)

お気に入りのパスタを食べながらアテナイの学堂の絵を見て、

「このパスタ、偉人のみなさんに一本ずつ分けてあげたい!」

と言ったり、

"小エビのサラダ"を見て

「ぜんぜん"小エビ"じゃないよ!"中エビ"って名乗ってもいいくらいだよ!」

なんて言いながら小エビを励ましたりした。

いつも割り勘で頼む"辛味チキン"の最後のひとつはお互いのやさしさがぶつかる譲り合いのせいで、どちらかが折れる頃には冷めてしまっていた。そして毎回

「冷たくなっちゃったね。」

と笑って食べるのがお決まりだった。

私がデザートの"ティラミス クラシコ"を食べた後にわざわざ"柔らか青豆の温サラダ"を頼んで一粒ずつゆっくり食べるのは、「もう少し一緒にいようよ。」なんて恥ずかしくて言えなかったからだということを彼女が知ったら笑うだろうか。

彼女といるだけで幸せだった。彼女と居るだけで"コーンクリームスープ"は美しく澄んだ地中海のように、"ミックスグリル"の上の目玉焼きは燦々と輝く太陽のように感じられた。


ミケランジェロ『アダムの創造』(1511)

しかし、ずっと私は彼女の心に触れられそうで触れられなかったのだった。アダムと神の指先が決して触れることがないように。

ふとある時彼女が同じサークルの先輩のことが好きだということを小耳に挟んでしまった。だが、あの時の私は賽を投げることなどできなかった。私が投げることができたのはせいぜいトレヴィの泉に向かって投げるコインくらいだった。それでも彼女への思いは"バッファローモッツァレラのピザ"のチーズのように、断ち切ることが難しかった。

私はまちがいさがしの答えを全部知ってもなお、知らないふりを続けたのだった。少しでも彼女のそばに居たかったから。

その日は彼女といつものようにサイゼリヤへ来た。しかしいつもとは違かった。彼女はお気に入りの"ミートソースボロニア風"にさらに"ペコリーノ・ロマーノ"を追加トッピングした。いつもトッピングなどしないのに疑問に思って問いかけると、

「実はね、最近嬉しいことがあったから。」

「なになに。おしえてよ。」

「あのね、実は...」

恥ずかしそうに彼女は訳を語った。"ランブルスコ"みたいにピンク色に染まった頬が愛おしかった。私は目の前が真っ暗になった。"イカの墨入りスパゲッティ"のように。ちらりと天使たちに目をやると彼らはそっぽを向いて知らんぷりしているだけであった。



ラファエッロ・サンティ『システィーナの聖母』(1512)の1部

帰り際、

「こうやってサイゼリヤ来るのもあんまりできなくなっちゃうね。」

少し寂しそうに彼女は言った。

店を出ると外では雪が舞っていた。"ペコリーノ・ロマーノ"みたいな雪だった。白い雪は手のひらに落ちてふわりと消えた。

豆知識コーナー!

レディー・ガガはイタリア系

The End

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